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富士山頂でのこと

前日の夜、「体調が悪くなってどうしても行けなくなった」と連絡があった。ふたりで登る予定だったのに。迷う。富士登山は何度もしたことがあったがいずれも複数人だった。独りで行くか、否か。登ることにした。初めての体験。景色の変化を楽しむというより、自分の内面との対話になった。学生時代サークルの仲間で登ったことがある。酸欠具合を感じながら本場アンデスと同じ標高で、笛を吹くために。当時は山小屋に一泊するお金がなく、山小屋の下で、男だけで野宿をして「寝ちゃだめだ」などと冗談を言いながら、星を眺めたことを思い出した。ご来光を拝むため深夜に起き、頂上を目指す。快晴、日の出とともに柏手や歓声が聞こえる。すわり心地のよい場所に陣取り、笛を吹く。聴衆もちらほらと集まってきた。笛を吹いていると、何か大きな物を抱えてこちらに向かっている男性がいる。アフリカの太鼓、ジャンベだ。さすがに驚いた。セッションしましょう、と声をかけられ、富士山頂で即興の演奏会がはじまる。聞いていた若い男の子から「最高でした」と声をかけていただく。ジャンベ奏者の名前も連絡先も聞かず、彼も僕の名前も知らず握手をして別れた。