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カレー示現流

カレー示現流

父の故郷鹿児島には360年前に創始された薩摩藩に伝わる示現流という藩外の者への伝授が固く禁じられていた剣術の流派がある。絶対に初太刀で相手を仕留める事を信条とする、二の太刀は無い、一の太刀を外した時の事は考えないとするエッジの効いた剣術法だ。チェスト〜という掛け声と共に全身全霊で刀を叩き込む。それが示現流だ。昨今の南インドカレーブームやスパイスカレーや間借りカレーにはじまるカレーブーム。スパイス卸問屋に聞くと、国内でかなりカレー屋が増えているらしい。ヨガやアーユルベーダの浸透も追い風となり、日本におけるカレーのレベルがワンランクもツーランクも上がっている気がする。そんなブームの中、いったい自分はどんな立ち位置で今後どうして行こうかと考える日々。将来の方向性の結論はまとまらないのだが、立ち位置はぼんやり定まってきた。もはやインドの有名ホテルからシェフを呼ぶ店や、南北インドやスリランカで修行した日本人がキラ星のごとく群雄割拠し、言ってみれば様々な剣術家が互いの流派を競いあうカレー戦国時代の様をなしている。僕はお客様に提供できるレシピは本当に一種類しか知らない。一撃必殺ならぬ「一皿必食」しか活路がないのだ。いわばカレー示現流だ。そもそも示現とは神仏が霊験を示し現すこと、仏や菩薩が救済の為この世に様々なかたちとなって現れること、という意味で実に極楽カリーと相性の良い言葉だ。僕は調理学校に通ったわけでもなく、100のレシピを作れるわけでもない。窓際族サラリーマンの僕が、あらゆる事を煙に巻く仙人のようなオヤジから教わった、たった一つのレストランメニューではないおもてなし家庭料理レシピで、これからも千変万化するカレービジネス界に立ち向かうのも、昔もこれからもあのレシピを如何に研鑽していくかにかかっている。工夫やアレンジではなく、ひたすら同じレシピを作り続け深掘りしていく事でしか、それは成し遂げられない。終わりのないマラソンを続けるようなものだから、気長にやっていこうと思った冬の嵐の午後。今借りている店の入っているビルも築45年でいつまで同じ場所で続けられるかも分からないが、例え少し休んだとしても、どこかで復活してカレー屋を続け、将来、いつか誰かに今より磨きをかけたレシピを伝え、彼らが商売繁盛店を持続的に営業できるような未来を作る手伝いが出来たら本望だな。ちなみに示現流のチェストという掛け声の意味は諸説あるが「知恵を捨てろ」という意味が有力だ。何も考えず無になれ、みたいなかっこいい言葉ではなかったが、「馬鹿になれ」とオヤジからひたすら言われていた事をふと思い出した。